小説第三弾は、茜空に続き、志々雄様と由美さんです。
が、志々雄様と宗次郎がメインで登場します。
私にしては長いのですが、一般的にはどうなのだろう。書いている時は長文!と思っても、改めて見ると短っ!ってなることが多いです(笑)
国文学科のくせに日本語表現がおかしいという罠。誤字脱字はバンバンあります(キッパリ)←
それでは、つづきからどうぞ。
女ヲ生ンデモ悲惨スル事ナカレ。男ヲ生ンデモ喜歓スル事ナカレ。男ハ侯ニダモ封ゼラレズ。女ハ妃タリ。
-花海棠(ハナカイドウ)-
「志々雄さん。」
ゆったりと煙管を燻らせる主人に柔和な顔つきの少年が話しかける。
いつも主人の傍らにいる麗人は、主人の薬を取りに行っており、部屋の中には珍しく二人きりだった。
「あ?」
主人がけだるそうに首を少年の方に向けると少年は先ほどと同じ顔つきで話を続けた。
「この世は弱肉強食なんですよね。」
「それがどうした?」
「それなら、由美さんは生きていけるのでしょうか?」
(「弱い」のに・・・)
言外にその言葉が含まれているのは明白である。
悪意がある質問だと思われがちだが、本人はいたって純粋に聞いている。
少年は妾の子供として虐げられて育ったせいか、世間一般のことに少々疎い所があり、主人もそれを心得ている。
だから、主人は少年が疑問を抱いた時には例えそれが的外れな質問であろうと答えるようにしてきた。
「宗、男は自分自身の力で成り上がらなきゃなんねぇ。俺やお前は剣の腕、方治は頭だな。男はまさに弱肉強食、強くなきゃ死ぬだけだ。」
「はい。」
自分が聞いた質問の答えとは少々違った言葉に不思議そうな顔をしながらも少年は相槌を打つ。
「だが、女は違う。」
主人は煙を吐き出し、言葉を紡ぐ。
「唐の皇帝に愛された楊貴妃や日本でも鳥羽天皇の寵愛を受けた狐、女は権力者の寵愛を受けることで、権勢を思うままにできる。もちろん、惚れさせる素質を持つ女に限るがな。」
少年は興味津々といった面持ちで主人の話を聞いている。
「かつて由美は吉原一の花魁だった。吉原の中じゃぁ、客の身分なんて関係ねぇ。由美に気に入られるか、どうかだ。客が由美を選ぶのではなく、由美が客を選ぶ。政府のお偉方すら、どんなにつれない態度をとられようと、由美に気に入られるために大枚はたいて機嫌を伺うのさ。」
当時を思い出したのか、くっくっ、と笑いを噛み殺し、主人は話を続ける。
「女の強さは時の権力者を惚れさせること。」
「つまり、俺を惚れさせたことが由美の強さだ。」
「まぁ」
少年が相槌を打とうとした時、柔らかな女の声が割り込んできた。
少年が視線を向けると、薬袋と水の入ったグラスを乗せた盆を持った女が立っていた。
「あ、由美さん。お帰りなさい。遅かったですねー。」
「ただいま、坊や。途中で、方治につかまってしまってね、志々雄様のお体の具合について延々聞いてくるのよ?」
女は少年の方を向いて「うんざり」という風に大げさに肩をすくめてみせた。
「ははは、方治さんらしいや!」
女の仕草が興味深かったのか、少年はころころと笑っている。
「あ、坊や。鎌足が坊やを探していたわよ?京都の珍しい菓子が手に入ったみたいなの。」
「わぁ、それは楽しみだなぁ。それじゃ、志々雄さん、由美さん、お先に。」
「おう。」
「いってらしゃい。」
先程の疑問が解消したからなのか、単に京菓子に興味が移ったのか、少年は足早に部屋を出た。
部屋に残されたのは主人と女。
「志々雄様、夕餉の後のお薬です。それと・・・」
女は主人に薬とグラスを差し出しながら、おずおずと言葉を紡いだ。
「志々雄様、先程おっしゃっていたのは・・・」
「お前の強さは俺を惚れさせた云々か?」
「はい。」
頬を紅く染め、次の言葉を待つ女に主人は囁いた。
「俺は事実しか言わねぇよ。由美、お前は相当強いぜ?」
其の瞬間、女は花が咲くように満面の笑みを湛え、主人はその顔を見て、満足げに微笑むのだった。
女を生んでも悲観してはいけないよ。男を生んでも喜んではいけないよ。男は諸侯にもなれないが、女は妃になれるのだから―――
---
最後まで読んでくださりありがとうございました。
由美さんには剣の腕も、方治のような並外れた頭脳もないので、「弱肉強食の中で、どうやって生き抜いてゆくの?」という宗次郎の質問に志々雄様が答える、という話でした。志々雄様に「俺を惚れさせた」と言わせたかっただけともいう←
男は力(頭脳)において弱肉強食で、自分で成り上がってゆかなければいけませんが、女は権力者に寵愛されることで、自分の力以上に栄華を極められる、という話になぞらえて、志々雄様(権力者?)に愛されている由美さんを表したかったんですが・・・・・・挫折。
タイトルの「花海棠」は「艶麗」という花言葉があります。由美さんにぴったりじゃないか!!と思い、気に入っています。管理人はタイトルをつけるのが、苦手なので、花言葉や季語シリーズで今後もつけるかもです。
ちなみに、「鳥羽天皇の狐」とは鳥羽天皇に寵愛され、保元の乱のきっかけともなったと言われている美福門院得子のことです。九尾の狐のモデルとなった女性だともいわれています。
それでは、御覧下さりありがとうございました。更新は不定期ですが、またお越しくださると嬉しいです。
夢路。